れな子にとっての「友人」「親友」「恋人」って?

…フォロワーがおすすめしていたライトノベル「わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)」通称「わたなれ」の既刊4巻分を読みました!

いや~!めっちゃ面白かったです。

フォロワーが強くおすすめしていて、セールだからと買って読んでいるうちにどんどんハマってしまい一気に読み進めました。小説に飽き足らずコミカライズ版も全部読んでしまいました。

基本的にはこの記事は1巻の内容にガンガン触れていくので、ぜひ1巻部分を読んでからこの記事を読んでくれるとありがたいですが、記事だけ読みたいという奇特な無差別活字中毒な人もいるかもしれないので、簡単なあらすじをここに書いておきます。

 

<あらすじ>
主人公・甘織れな子は、人間関係でつまづいて、引きこもり気味の中学生活を送っていたが、意を決して高校デビュー。デビューは無事成功して、スクールカーストトップの美少女グループに所属することになる。さらに偶然のきっかけで、金髪長身クォーターで絶対的な人気を誇るモデル・王塚真唯と特別な関係を持つことになる。恋愛、しかも仲良しグループの女の子と付き合うなんて、ムリムリ!私、どうなっちゃうの~~~!!!

 

さて、僕はKindleで小説版を読んでいるのですが、せっかくだからハイライト機能を使いながら読んでみよ~ということで、ある着眼点で線を引きながら読んでみることにしました。それは、れな子の「友人」と「恋人」に対する見方についてです。この視点に着目しつつ、れな子の距離縮め力の秘密に迫っていきたいです(?)

 

まず、れな子が(自称)「陰キャ」になってしまった経緯として、中学時代の人間関係でのトラブルがあります。友達の遊びの誘いを断ったら、その後なんとなく無視されてぼっちになってしまった、という悲しい事件がありました。

この事件をきっかけに、れな子は「自分の行動が周りの人にどう評価されているのか、他人の目が気になって仕方なくなって」と回想しています。

これがまさにれな子の友達観を形成する原体験となっており、この体験ゆえに「友達は『自然にできる』ものじゃなくて『がんばって作る』ものだったし、居場所やグループも、しがみついてなんとか維持し続けなければならないものだった」と述懐しています。

で、他人の目が気になるって話、僕はめっちゃ分かるなと思ったのですが、コミュニケーションに苦手意識のある人は結構共感できるんじゃないかと思います。れな子のこうした性格がまさに描写されているのが、1巻で紫陽花と一緒にいるときの脳内です。

「わ、わたしも……わたしも、ゲーム好きなの!」

ハッ、と気づく。やばい、ついついキモムーブをしてしまった。共通の趣味があるからって鼻息荒くしちゃいけないんだってば!

これにはさすがの紫陽花さんも不快感をあらわにして……。

「へー、そうなんだー。意外だね、れなちゃんってそういうの興味ないかと思ってた。ね、どんなゲームやるの?」 

天使~~~~~~!

みかみてれん(2020),わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?) 1(ダッシュエックス文庫),(165p).株式会社 集英社,Kindle

紫陽花はれな子にとって親友でもない単なる「友達」であって、しかもまだ打ち解けていない関係なので、かなり慎重に接しています。自分の発言に対して、相手の反応を悲観的に想像して、顔色を窺って、その反応に対して一喜一憂しています。れな子が相手の顔色を窺っている描写は結構ある感じがします。

これは、れな子にとって理想の状態というわけではありません。れな子はしばしば「理想の友人」像について脳内で語っています。

  • 駆け引きや打算や損得勘定がなく付き合える
  • 一緒にばかやったり、楽しい時には盛り上がって、つらい時に黙ってそばにいてくれる
  • 放課後カフェに寄ったり、一緒にどこか遊びに行ったり、共通の趣味を楽しんだりできる

要は、一緒にいて楽しくて、自然体でいられる状態を理想と感じていると言えます。れな子にとって、相手の顔色を窺ってしまうような距離感の状態は、居心地が良くないと感じてしまうものなのです。

テレビの前で無邪気にきゃいきゃいと騒ぐわたしたちの間には駆け引きとか、空気読むとか、そんなのはまったくなくて。ああ、やっぱり友達がいちばんいい。これ以上の関係なんてありえない!

みかみてれん(2020),わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?) 1(ダッシュエックス文庫),(71p).株式会社 集英社,Kindle

れな子が「恋人なんてムリムリ!」と感じているのは、恋愛とはまさに駆け引きや打算が絡むものだと考えているからです。中学時代の忌まわしきトラウマは、彼女に嫌われてしまうことへの不安を植え付けていて、駆け引きや打算は関係の破綻を招くからこそ避けたいものとして捉えているのではないでしょうか。

ここで次に、れな子の「恋人」に対する見方を列挙してみます。

  • 「恋人相手じゃ、気を遣っちゃうじゃん。よく見られたいって思ったり、嫌われたくない、もっと好きになってほしいとか、いろいろ思っちゃったりさ」

みかみてれん(2020),わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?) 1(ダッシュエックス文庫),(110p).株式会社 集英社,Kindle

  • グループ内ですらまともに立ち回れないのに、そんなわたしが恋人付き合い?ぜったいムリでしょ。

みかみてれん(2020),わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?) 1(ダッシュエックス文庫),(38p).株式会社 集英社,Kindle

まさに、理想の友達像とは反対に、自然体ではいられない関係として恋愛を捉えています。実際に、真唯との電話でそうなりかけて、この見方を強化する形になっていました。

このままじゃ、わたしたちはいずれもっと大きな、あるいは、決定的なケンカをしちゃう気がする。やっぱり恋愛は危険だ。真唯ですらおかしくなるんだから、やめたほうがいい!

みかみてれん(2020),わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?) 1(ダッシュエックス文庫),(173p).株式会社 集英社,Kindle

ところで、何故友達関係では自然体でいられるのに、恋愛になるとそうはいかないのでしょうか。それはやはり、恋人関係になれるのは普通、ただ一人だけだからな気がします。誰かの恋人になるということは、他の人を差し置いて一番になるということであり、その席を何人かが欲しがっているのであれば、必然的にバトルが発生してしまうわけです(?)。駆け引きや打算というのも、バトルにはつきものというわけです。

 

さて、れな子のモノローグや発言で明言された「友人」観と「恋人」観を踏まえると、恋人ではなく親友が欲しいのだという風に受け止めることができます。しかし、紫陽花との距離の取り方を見ていると、れな子は相手の出方を気にするあまりなかなか人と打ち解けられず、「親友」を得るのは難しいのではないかと思えてきます。

そこで「百合」ならではのマジックが発動しているのがこの本の面白いところのような気がします。真唯はれな子と恋人の関係になりたいと言って、グイグイと迫ってきます。それに引き寄せられて、結果として真唯とれな子の距離はぐっと縮まっていきます。

「簡単には忘れないよ。だって今は『親友』なんでしょ。遠い空の下で寂しそうにしてる友達の言葉、聞き流せないよ」
紫陽花さんや男の子には言えなかった言葉も、真唯相手ならスラスラと口にすることができた。どうしてなのかは自分でもわからないけど。

みかみてれん(2020),わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?) 1(ダッシュエックス文庫),(167p).株式会社 集英社,Kindle

相手の顔色を窺ってしまうれな子が真唯とは距離感を縮められたのは、この場面では自覚がなさそうだけど、恋愛の要素があったからこそのような気がします。

れな子の思う「親友」と、真唯の思う「恋人」は実は結構一致していた、というくだりがありましたが、そこで決定的な差として出てきたのが、相手を欲望の対象としてみるかどうか問題です。れな子はそもそも同性を恋愛の対象としては見ていなかったので、恋愛感情的なものは自覚せずにいます。しかし、真唯に目覚めさせられてしまったので、真唯を恋愛的な意味でも意識してしまっているように見えます。いわば、意識では親友を追い求めているけど、無意識では恋人もアリと思っちゃってる感じなのではと思います。

2/5追記→この記事は1巻の途中までを再読して書いてしまったのですが、1巻の最後では結局れな子は真唯への恋心を認めて、そのうえでやっぱり「れまフレ」の関係がいいと結論を出していたので、その部分を追記します。

1巻の最後でれな子は傷心で自棄になっている真唯を救い出しに行きました。この「助けに行く」ということ自体は「親友」としての行動ですが、そのあとれな子は初めて自分から真唯にキスをします。これは「親友」のラインを越えてるよな!?と思ったられな子もちゃんとそれは自覚していて、「恋心を隠していた」「『親友』にではなく、『恋人』に初めて告げるわたしの本音だ」と語り、「けっこう……好きだよ、真唯のこと」と述べました。

その後、れな子は「親友同士はキスとかしないはずだけどね……!」と語っているので、一応れな子の中ではそこで線引きがあるようです。

これはあくまで1巻範囲を読み返してのまとめなので、これを踏まえて2巻以降を再読していって、れな子の考えの変化にも着目していこうと思います。